「クラウドの可用性」は、クラウドサービスを利用したりオンプレミスからクラウドへ移行したりする際に知っておきたいキーワードです。ただし可用性の定義を正確に把握されていない方も多いのではないでしょうか。
この記事ではクラウドの可用性とは何かと他の用語との分かりにくい違い、可用性に関するオンプレミスとの差を解説します。さらにクラウドの可用性を高めるために知っておきたい4つのポイントも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
クラウドの可用性とは?わかりやすく解説
クラウドの可用性について、今さら聞きにくい部分まで簡単に解説します。用語の詳細をきちんと理解することで、実際にクラウド移行する際も、コミュニケーションに困ることはないでしょう。
そもそもクラウドとは
GoogleドライブやGmail、iCloudやSNS、Zoomなどのオンライン会議ツール、オンラインゲーム – これらは全てクラウドのサービスです。ビジネス向けのクラウドでは、マイクロソフト社のOffice365やGoogle社のG Suiteを利用している企業も多いでしょう。
クラウドとはインターネットなどのネットワークを介して利用できるサービス全般を指します。クラウドのサービスを利用するにあたり、ユーザーはソフトウェアを用意する必要はありません。ブラウザとネットワークへ接続できる環境さえあれば、クラウドを利用可能です。
「クラウド(cloud)」は、日本語では「雲」と訳せます。文字通り雲のように、「つかめないけれど実態がある」ことからクラウドと呼ばれているのです。
これらを踏まえクラウドの可用性とは、「そのクラウドを正常に使い続けられる能力」を指します。それでは「可用性」とはどのような意味で、どのように計測されるのでしょうか。
可用性とは?【定義を含めて解説】
可用性とは簡単に言うと、システムが通常通り使える状態を維持する能力です。「可用性が高いクラウドシステム」とは、良好な状態で長く稼働し続けるクラウドシステムを指します。反対に「可用性が低いクラウドシステム」とは、障害が多く発生し使えない時間が多いクラウドシステムのことです。可用性が高いことを「高可用性」、可用性が低いことを「低可用性」とも言います。
また可用性を計測し数値で表現する際に使われるのが「稼働率」です。稼働率とは、運用時間のなかでシステムが正常に稼働していた時間の割合を指します。たとえば運用時間が100時間で、そのうち99.9時間は正常に稼働していたのであれば、稼働率は以下の通りです。
99.9÷100=0.999(99.9%)
稼働率は、以下の2つの指標でより詳しく計算することも可能です。
指標の名前 | 日本語訳 | 意味 |
---|---|---|
MTBF(Mean Time Between Failure) | 平均故障間隔 | 故障が発生してから、次の故障が発生するまでの平均的な間隔 |
MTTR(Mean Time To Repair) | 平均修復時間 | システムに障害が発生してから修復が完了するまでにかかる平均的な時間 |
この2つの指標を使って稼働率を算出する場合の計算式は以下の通りです。
MTBF÷(MTBF+MTTR)=稼働率
たとえば以下のような状態が続くシステムを想定してみましょう。
- 100時間、正常に稼働
- 障害が発生し、復旧までに0.5時間かかった
- 200時間、正常に稼働
- 障害が発生し、復旧までに1時間かかった
- 300時間、正常に稼働
- 障害が発生し、復旧までに1.5時間かかった
この場合、MTBFとMTTRは、それぞれ以下のように求められます。
- MTBF(平均故障間隔)
(100時間+200時間+300時間)÷3=200時間 - MTTR(平均修復時間)
(0.5時間+1時間+1.5時間)÷3=1時間
稼働率を求める計算式は以下の通りです。
200時間【MTBF】÷(200時間【MTBF】+1時間【MTTR】)≒0.995(99.5%)
可用性と信頼性の違い
可用性と信頼性はいずれも、「システムをどれくらい正常に使えるか」を表現する際に使われる言葉です。ただし、それぞれ意味する概念は異なります。
可用性とは「システムが通常通り使える状態を維持する能力」を示す言葉でした。一方で信頼性によって計測されるのは、「そのシステムに障害が発生せず、どのくらい正常に機能し続けられるか」です。
可用性の高さが稼働率によって計測されるのに対し、信頼性を示す指標の1つとして、MTBF(平均故障間隔)があげられます。MTBFが200時間と300時間のシステムであれば、300時間のシステムの方が「信頼性が高い」といえるわけです。
可用性と信頼性の違いについては、お店の営業時間で例えると分かりやすいかもしれません。営業時間が長くて便利なお店は、「信頼性が高い」と言えます。一方、休業時間が短くほぼ常に開いているお店は「可用性が高い」ということです。
可用性と耐障害性の違い
耐障害性とは可用性を構成する1つの要素です。具体的には障害が発生してもシステムを稼働し続けられたり、自動復旧して稼働を再開できたりする能力を指します。
可用性と耐障害性の違いを、マラソンランナーで例えて考えてみましょう。他の選手とぶつかったり倒れたりしても、態勢を立て直し走り続けられる能力が耐障害性です。一方で可用性とはマラソンランナーがゴールするまでトラブルがあっても、どれだけの割合で走り続けられるかを指します。
クラウドの可用性が重要視される理由
可用性は様々なシーンで触れられている概念です。たとえば国際規格「ISO/IEC 27002」では、情報セキュリティを構成する3要素として機密性・完全性と並び、可用性が挙げられています。
また2018年に公開された「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」でも、可用性が取り上げられました。具体的にはクラウドを利用するメリットとして、効率性の向上やセキュリティ水準の向上と並び、可用性の向上が挙げられています。
このように可用性は重視されているわけです。クラウドシステムを利用するにあたり、その可用性は必ずチェックすべき項目と言えます。
クラウドは可用性の面でオンプレミスと何が違うか
クラウドの可用性を考える上で、オンプレミスとの比較は避けられません。オンプレミスとは、自社内でシステムを購入・管理することです。
オンプレミスからクラウドへの移行は、企業が抱える課題の1つとなっています。クラウドへ移行することによって、業務効率化やコスト削減を実現できるためです。
ここでは可用性という視点で、クラウドはオンプレミスとどう違うか1つずつ紹介します。
電源の自己管理が不要
電源が断たれるとサーバーが停止するのは言うまでもありません。そうならないためにも、オンプレミスでは、予備を含め電源を複数配置・管理する必要があります。
一方でクラウドの場合、電源は事業者(ベンダー)が管理してくれるので、ユーザーは電源が断たれてしまうことを意識する必要がありません。ユーザー側でサーバーの電源を管理したり、予備を運用したりするといった対応は不要です。電源のバックアップは、ベンダー側が整備しています。
物理サーバーの保守について考慮する必要がない
オンプレミスにおいては、物理サーバーの保守・管理は自分自身でしなくてはなりません。システムの障害に備えるためサーバーを冗長化したり、障害が発生しても短い時間で復旧できるよう構成したりする必要があります。また仮に冗長化していても、その一部が単一の障害点にならないように気を付けなくてはなりません。
一方、クラウドではサーバーが仮想化されており、障害時には自動で別の物理サーバーへ切り替えること(自動フェイルオーバー)が可能です。自動フェイルオーバーに対応したクラウドサービスであれば、ユーザーは物理サーバーの保守について意識する必要はありません。
クラウドであれば、物理的・地理的に離れた複数の物理サーバーを利用することも比較的容易です。オンプレミスと比べ、災害に強いシステムを構築しやすくなっています。
なおベンダーによっては自動フェイルオーバーを行っていないので注意が必要です。クラウドサービスを選ぶ際は、自動フェイルオーバーの対応可否についてもチェックするようにしましょう。
あらかじめハイレベルなRAIDでストレージが管理されている
ストレージが故障するとシステムが停止するだけでなく、重要なデータが失われる可能性もあることから特に注意しなくてはなりません。オンプレミスで運用する場合、一般的にはRAIDによりストレージを冗長化します。さらにRAIDを制御するコントローラーが単一障害点とならないよう、コントローラー自体の冗長化も必要です。
一方クラウドでは、あらかじめ最新のハイレベルなRAIDが利用されています。ユーザー側で、改めてRAIDを組む必要がありません。ストレージのメンテナンスが必要な際も、仮想サーバーを停止せずにすむよう構成されているのが一般的です。
ネットワークの自己管理が不要
オンプレミスではネットワークに関しても、自己管理が必要です。ネットワークがハードウェアに依存することから、電源が落ちると停止します。システム障害に備えるために、ネットワークを構成するハードウェアなどの予備を配置・運用することも必要です。
一方、クラウドではネットワークに関しても事業者が管理します。ネットワークをダウンさせないために、ユーザー側で電源や予備を運用・管理する必要がありません。バックアップ体制が整っていることから、一般的にはオンプレミスより安定した利用が可能です。
クラウドを活用し可用性を高めるためおさえておくべきポイント
一口にクラウドサービスといっても様々な種類や特徴があります。そのためクラウドを適切に活用しシステムの可用性を向上させるためには、いくつかのポイントを把握しておくことが必要です。この項では、システムの可用性を検討する上で覚えておきたいこれらポイントをまとめて解説します。
他サービスと連携やライセンス追加のしやすさが重要
クラウドは他社サービスと連携して、外部データの取り込みなどの機能拡張を実現できます。このような連携が容易にできるかどうかは、クラウドサービスを選ぶ上で重要なポイントです。
またクラウドサービスを使う際には、利用ユーザーごと・サーバーごとなどにライセンスを購入する必要がある場合もあります。その際、ライセンスを追加しやすいか(費用が手ごろ化など)もチェックしておくべきポイントです。ライセンスを簡単に追加できず、対象のクラウドサービス思うような活用ができないといった事態にならないようにしましょう。
クラウドはあらかじめシステムが冗長化されている
障害が発生しても速やかに復旧できるように、あらかじめ予備システムを用意しておく冗長化はよく行われます。オンプレミスでシステムの冗長化をする場合、その準備や管理は全て自社で行わなくてはなりません。
一方、クラウドの場合は完ぺきとまで言えないものの、あらかじめ一定水準まで冗長化がされていることが多いです。その管理や運用については事業者が行っているため、ユーザーは特に意識する必要がありません。ユーザーは冗長化以外の部分により注力して、クラウドを管理・運用できるわけです。
リージョン/ゾーンを適切に選択・活用する
リージョンとゾーンは、地理的・物理的にハードウェア環境を分散し可用性を高める考え方です。リージョンは、クラウド設備を収容するデータセンターが所在する地域を指します。たとえば「東日本リージョン」「西日本リージョン」「北米リージョン」のように、日本国内外にリージョンが用意されているのです。
一方、ゾーンとはリージョンをさらに細かく分割した単位を指します。1つのリージョン内には1つ以上のゾーンが存在し、ゾーンごとにインフラが別々です。そのため複数のリージョン・ゾーンを適切に選んでシステムを冗長化することで、可用性を向上できます。
BCP対策・災害対策にも活用できる
BCP対策(Business Continuity Plan)とは自然災害などの緊急事態が発生した際、損害を最小限にとどめ速やかに復旧・事業継続できるようにすることです。BCP対策では、地理的に離れた場所で予備のシステムを用意しておくことが有効とされます。特定の地域が災害に見舞われても、別の地域で稼働する予備のシステムでサービスを再開できるためです。
ただしオンプレミスやデータセンターを活用し自社でBCP対策をする場合、莫大な初期費用と管理コストが必要となります。多くの企業では実現が難しいでしょう。
一方クラウドを活用することによって、これらコストを最小限にとどめることも可能です。クラウドであれば、たとえば東日本リージョンのバックアップとなるシステムを、西日本リージョンで比較的容易に構築できます。ネットワークや設置場所などの環境はクラウド事業者があらかじめ用意しているので、ユーザーが新たにコストを割く必要がないのです。
【結論】クラウドなら低コストで可用性の高いシステムを構築可能
高可用性を維持するポイントは、単一障害点をできるだけなくすことです。クラウドを活用すれば初期費用や社内の人的リソースの消費をおさえ、低コストでシステムの可用性を高められます。
クラウドでは、ハードウェアやネットワークといったシステムに必要な環境を事業者側があらかじめ用意・管理してくれるためです。ユーザーはこれらの購入や管理のために、限られたコストを消費する必要がありません。
ただしクラウドのシステムも完全ではないので、事業者に対策を丸投げしてしまうのは危険です。クラウドを有効活用しつつ、いつ障害が起こっても対応できるように、自社で適切なシステム設計をする必要があります。
クラウドならカゴヤのFLEX
カゴヤのクラウドサービス「FLEX」では、お客様のニーズにあった最適なクラウド環境の提案から導入支援まで行っています。FLEXではクラウドサーバーだけでなく、低コストでリソースをフル活用できる専用の物理サーバーと組み合わせたハイブリット構築も可能です。冗長化され拡張性にも優れたクラウドサーバーと、専用物理サーバーを組み合わせることによって、可能性は無限大に広がります。
オンプレミスからクラウドへの移行は、解決困難な課題が少なくありません。その点、カゴヤでは実績豊富な専任チームが、お客様と伴走しながら徹底的にサポートします。
KAGOYA FLEX
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回線引き込みや、ライセンスの持ち込みなど柔軟な対応も可能です。
まとめ
クラウドの可用性とは、そのクラウドが故障なく正常に使い続けられる能力のことです。可用性の高さは、稼働率によって計測されます。クラウドの可用性は様々なシーンで重要視されており、その意味は正確に把握しておく必要があるでしょう。
クラウドでは、可用性を高めるための設計や運用を業者側が実施しています。ハードウェアやネットワークの手配から自社で行わないといけないオンプレミスと比べると、高い可用性を保ちやすいのがメリットです。クラウドを活用すれば、自社のBCP対策・災害対策も実現しやすくなります。