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NFTによって変容するビジネスの常識

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NFTのビジネス活用

これまでの2回で、NFTがどういうもので、デジタルに対する考え方が変化するといったことを説明しました。デジタルの世界でありながら、オリジナルとコピーを区別する方法としてNFTが登場したのですが、エンジニアでもなかなかとっつきにくい概念です。エンジニアでもそのような状態なので、経営者でNFTやweb3の概念を理解している人は少なく、まだまだ浸透していません。しかし、確実に、新しいスタイルでのビジネスが立ち上がってきています。

今回は、そんなビジネスの変化について考えてみましょう。

エンジニアだからといって技術だけ知っていればいいという時代は過ぎ去ろうとしています。特にweb3では、さまざまな新しい価値観や概念、文化と言えるものを理解しないと、せっかくの技術を習得しても古い概念のままの設計をしてしまって、使えないエンジニアに成り下がることも。

このようなことは、これまでも何度か起きています。思い出すのは、オブジェクト指向プログラミングが登場したとき、それまでの構造化プログラミングに慣れ親しんだ人達は、当初、まったく理解できていなかったことです。オブジェクト指向に対応したプログラミング言語C++がリリースされても、その機能を活かしきれず構造化プログラミングのコーディングをしてしまう人も少なくありませんでした。自慢話になりますが、私自身C++コンパイラの開発に関わっていたので、当時、多くのプログラマーから質問攻めに合っていました。多くの人が、処理とデータは別であるという構造化プログラミングが染み着いていて、データと処理を一緒に扱うという意味が分からなかったのです。

今回のweb3は、それ以上の大きな変化が来ています。エンジニアとしては、ぜひ、全体像の概念の変化を理解し、取り残されないようにしてください。

Web2.0の覇者GAFAMの収入源は?

Web2.0では、GAFAMと呼ばれるビックテック企業が大きなシェアを握っています。ここでのシェアとは、どれだけ多くのユーザを集めているのかという意味で、とにかく、集客の熾烈な競争が展開しています。無料で使えるメールや検索エンジン、SNSを提供し、ファイル共有や写真データのストレージなども無料で提供しています。その結果、莫大なユーザの行動データによって強烈なマーケティングデータを収集することが可能になりました。それを広告ビジネスとして活用することで大きな利益を上げ、さらに新たなサービスを無料で提供することができるのです。広告効果を上げるためには、より多くのユーザのデータが必要であり、何億人、何十億人のユーザを集めたからこそ、GAFAMにしかできない状況になっているのです。

ただ、このビジネスモデルに反発している1社があります。Apple社はユーザの個人情報を守るという方針でサービスを提供しています。そうすると広告収益が得られないために、デバイスやサービスを他社よりも高く提供せざるをえなくなっています。

このようなWeb2.0において必要なエンジニアスキルは、とにかく数多くの人にサービスを提供することになるので、莫大なサーバ群、巨大なシステム運用ができることが重要になります。また、そこで収集されるビッグデータを扱う技術も必須です。クラウドによって、目に見えない巨大なサーバが運用され、その技術がとんでもなく重要になりました。

1000人、いや、100人の真のファンだけでいい

Web2.0の時代にも、100万人、1千万人の規模のサービスに疑問を持った人もいます。薄い関係性の何百万人よりも、濃い関係の1000人のコミュニティが重要だという意見で、Wiredの創刊編集長であるケビン・ケリーの記事「千人の忠実なファン」は広く知られている内容です。

そもそも、いくらインターネットで世界中の人たちとつながっていると言っても、何百万人ものファンを集めることができる人、あるいは、企業なんてごく一部であって、実現できないケースの方が多い。だからこそ、密な関係性を構築した1000人を集めることが重要であって、その人たちとの関係を深くしていくコミュニティを運営するということを強調しています。

さらにweb3になると、ベンチャー・キャピタリストであり、ブロガーでもあるリー・ジンは、たった100人と信頼できるコミュニティがあればいいと断言します。

実は、2022年10月に開催されたイベントWIRED CONFERENCE 2022で、ケビン・ケリーとリー・ジンが、このことについて話をいています。

1,000人の忠実なファンから100人の忠実なファンへ:SZ Newsletter VOL.156[WIRED CONFERENCE]

面白いのは、これまでは、「提供する側」と「受け取る側」に分かれているのですが、web3になってくると、100人はファンではなくNFTを購入して投資するといった関係性になってきます。共に運営する仲間になっていくという関係性で、キングコングの西野さんが言うところの「共犯者」という関係になっていくのです。ここには、今までのような数を多く集客して、数パーセントが反応してくれればいいというマーケティングとは全く違う発想が要求されます。

そこで得られる「真の100人」は、あなたを心底応援してくれる「共犯者」なので、これほど心強いことはないですよね。そして、このことはこれまでのWeb2.0では考えられないビジネスの進め方になってきます。だからこそ、これを支えるシステムを構築していくには、従来の大規模なシステムで何百万人、何千万人、何億人をささえるのとは全く違うテクノロジーが必要になってきます。

NFTだからできるクリエイターエコノミー

Web2.0までの数えきれないほどの人数を集め、そのデータを扱う巨大なサーバ群やビッグデータを扱える技術が重要です。しかし「真の100人」といった規模になってくると、データの数よりも「質」をどのように可視化していくのかということがとても重要になってきます。

何百万人といったユーザの行動データを扱うというのは、数字を見ているだけになってしあって、個々の人は見ていません。同じように「真の100人」という表現をすると100人という数字を扱っているように思ってしまいます。しかし、実際には個々の顔が見える関係、それぞれの人との繋がりを可視化していくことであり、それをどのような技術で実装するのかがとても重要になってきます。

ブロックチェーンでは、いつ、誰が(正確には、どのアドレスが)誰と取引したのかが記録されます。また、NFTでは、クリエイターと所有者、さらに、現在だけでなく、過去の所有者との関係性が記録されていきます。この感覚が分かってくると、例えば、ビジネスで帳簿に100万円と記載されているのと、「システムのモジュール開発をして、〇〇株式会社から100万円お支払いいただいた」というのは、感じ方が違ってくるのと同じ。

たった100人かもしれないけれど、顔が見える関係になってきて、クリエイターが量産して提供するのではなく、限定で100作品を作り提供する、場合によっては一人ひとりの顔を思い浮かべて作品を提供するといった関係になっていきます。

そんな理想のようなコミュニティを運営できるのかと思うかもしれませんが、いろいろ調べてみると宝塚歌劇団のスターを囲む「私設ファンクラブ」がそのような活動を行っていることが分かりました。非常に面白いことなのですが、私設ファンクラブはホームページなど存在しておらず、「人づて」でしか連絡する窓口が分かりません。これだけSNSが広まっている世の中にあって、私設ファンクラブのパーティー「お茶会」の写真は、一切、表にでることはありません。しかし、そういう状況であっても、いや、そういう状況だからこそ、熱烈なファンしか集まってこないのです。熱烈なファンだからこそ、何万人とかいるわけでなく、数十人から数百人程度で運営されているようです(これらは、非公開なので正確な数字は分かりません)。面白いことに、宝塚スターとファンとの関係性を深めているのは、手書き文字の手紙文化。少ない人数だからこそ、手書きで葉書や手紙をやりとりし、濃い人間関係を続けています。こういうアナログだからこそ伝わることを大事にしていることが、根底にあるということは忘れてはなりません。

まさに、この辺はクリエイターとファンとの関係性を構築していくNFTと同じで、そこにトークンが関連した経済が動いていくのがweb3だからこそ実現できる新しいコミュニティの在り方だと思います。

時間という物差しをNFTによって価値として位置づけられるかがカギ

少ない人数との関係性を築いていくのに重要なツールになるのがNFTですが、その特徴をよく理解して、ツールとしての設計を行わなければ宝の持ち腐れになってしまいます。

IT業界に長く関わっていると、機能はよくても実態に合っていない、人々の価値観が変化しなかったことで広がらなかったツールは数えきれないほどあります。情報共有という言葉は、インターネットが出てきてから言われているものではなく、何十年も前から企業内では言われてきました。

パソコンが職場に入ってきて、社内ネットワークで繋がってきたときに、各社競って社内情報共有システムが開発されました。今から考えると、非常にシンプルなファイル共有の仕組みなのですが、社内の情報を共有することで仕事の効率が上がると言われていました。

しかし、実際は、手書きの報告書が使われていた時代であり、スマホどころか携帯メールもなかった時代なので忙しい外回りの営業スタッフは入力するために会社にわざわざ戻ることなどありません。ましてや、トップの営業担当ほど、独自の販路を持っているので、だれもそんな情報を共有しようとしません。その結果、情報共有のシステムは導入されたものの、誰も使わない状態となってしまいました。

NFTやブロックチェーンも、その本質を理解し、どのようなビジネスに向いているのか、どんな価値観の人々が使うのかを掘り下げて設計していかないと、誰も使わないゴミのようなNFTシステムが増えていくことになります。

ブロックチェーンに記録すれば、インターネットを介して誰もが確認できるということ。履歴をチェックできるという特徴は、従来の外部アクセスを禁止する開発方法とは全く違います。さらに、一旦、刻まれた記録は修正できないという点も設計思想を根本から考え直さないと、従来のように修正機能や削除機能をついつい考えてしまうようでは、大きなトラブルになってしまいます。

言い換えれば、履歴を記録し、その記録があることによって価値が生まれる、あるいは、そこに重要な意味があるということを意識しておかないと、ブロックチェーンやNFTをうまく活用できなくなってしまいます。時間が積み重ねられることによって生まれてくる価値、人から人へ伝わっていくことによる価値といったものを、どう活かすのかが問われています。

まとめ

今回は、Web2.0からweb3への変化によって、技術だけでなくビジネスの在り方、お客様との関係性の変化について考えてみました。エンジニアは、こういう変化を理解した上で設計していかないと、いつまでもWeb2.0と同じ発想で開発していると取り残されてしまいます。

最初にも書きましたが、構造化プログラミングからオブジェクト指向プログラミングに変化したときに、テクノロジーの変化と思っていたエンジニアと、思考方法や考え方が変化していると感じたエンジニアでは大きな差になりました。ブロックチェーンをベースにしたweb3の変化も同じように、単に新しい技術として見るのか、文化をも変えようとしていると考えるのかで、これからのエンジニアとしての活躍に大きな差が出てくるでしょう。ぜひ、この連載で技術だけではない変化を理解して、ワンランク上のエンジニアを目指していただければと思います。

さて、次回は、NFTとメタバースの関係を取り上げたいと思います。メタバースそのものは新しいようで古くからある考え方。そこにNFTが組み合わさったことで、何が起きようとしているのか考えてみましょう。

【全4回】足立明穂の連載記事

第1回:NFTを支えるブロックチェーン

第2回:デジタル・データの概念を変えるNFT

第3回:NFTによって変容するビジネスの常識

第4回:NFTとメタバースが組み合わさった未来

Podcast: 足立明穂の週刊ITトレンドX

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