
ガバメントクラウドは政府共通のクラウド環境であり、府省庁や地方自治体などの行政機関が主な利用対象です。自治体には、2025年度末までに特定の業務システムをガバメントクラウドへ移行する努力義務が課されています。
ここでは、ガバメントクラウドの仕組みやメリット、ベンダー(サービス)一覧、移行の課題などを分かりやすく解説します。
ガバメントクラウドとは
ガバメントクラウドとは、政府が提供するクラウドサービス環境です。主に府省庁や地方自治体を利用対象としています。
デジタル庁が調達したクラウド環境にさまざまな行政システムが集約され、各行政機関は標準化・共通化されたシステムを利用することができます。
なお、ガバメント(Government)は英語で「政府」を意味し、「政府クラウド」「Gov-Cloud」と呼ばれることもあります。
導入の背景
政府がガバメントクラウドを導入した理由は、行政機関における業務の効率化や行政サービスのデジタル化を図るためです。
これまで、全国の行政機関は各自で業務システムの構築や運用を行ってきました。その結果、各システムの使い勝手や安全性には差が生じ、改修・改善を行うにも個別対応が必要でした。
現在、日本では人口減少が進んでおり、今後も行政システムを維持するには業務の効率化が必要です。また、住民サービスの利便性向上においてもデジタル化は必須であり、その促進に向けてガバメントクラウドが導入されました。
移行の目標は2025年度末
政府は自治体に対して、法律で指定した業務システムを国が定めた基準や規格を満たす「標準準拠システム」に移行するよう義務付けています。その期限は、原則として2025年度末(2026年3月末)です。
標準準拠システムへの移行自体は義務ですが、ガバメントクラウドの利用は義務でありません。しかし、政府は標準準拠システムを活用する手段として、ガバメントクラウドの利用を努力義務としています。
目標期限までは残り約1年。自治体には急ピッチでの移行作業が求められています。
2024年12月、政府は独立行政法人や地方独立行政法人、特殊法人などの一部にもガバメントクラウド利用検討の努力義務を課すと決定しました。具体的には、NHKや日本銀行、日本中央競馬会(JRA)などが対象に含まれます。
ガバメントクラウドの仕組み

ガバメントクラウドでは、政府が用意したクラウド基盤上に、行政サービスに必要な多数のアプリが用意されています。
クラウドサービスは、デジタル庁が直接契約したものが使われています。2025年1月末時点では5種類存在し、どれを利用するかは各自治体が自由に決めることが可能です。
クラウド上には、民間の事業者が開発したアプリが多数存在します。どのアプリを使うかも、自治体ごとに決めることが可能です。複数の事業者がそれぞれに開発を行うことで、競争が促される仕組みとなっています。
認定されているクラウドサービス一覧
2025年1月末現在、デジタル庁が契約しているクラウドサービスは以下の5種類です。
- Amazon Web Services
- Google Cloud
- Microsoft Azure
- Oracle Cloud Infrastructure
- さくらのクラウド(条件付き)
※さくらのクラウドは2025年度末までに技術要件をすべて満たすことを前提とした条件付きの認定
ガバメントクラウドには、個人情報を扱うシステムが多数集約されます。そのため、選定では非常に多岐にわたる技術要件が提示されており、高い情報セキュリティレベルが確保されています。
移行対象となる業務システム
自治体は「全業務システムを標準準拠システムに移行しなければいけない」という訳ではありません。移行対象となるのは「基幹系業務システム」と呼ばれる以下の20種類です。
分類 | 対象業務 |
---|---|
住民基本台帳 | 住民基本台帳、選挙人名簿管理、国民年金 |
戸籍 | 戸籍、戸籍の附票 |
税金 | 固定資産税、個人住民税、法人住民税、軽自動車税 |
子ども | 子ども・子育て支援、児童手当、児童扶養手当、就学 |
国民健康保険 | 国民健康保険 |
介護・福祉 | 障害者福祉、後期高齢者医療、介護保険、健康管理 |
生活保護 | 生活保護 |
その他 | 印鑑登録 |
ガバメントクラウド利用のメリット
自治体のガバメントクラウド利用には、主に以下の4つのメリットがあります。
- メリット①環境構築や運用での人的負担を削減できる
- メリット②拡張の自由度が高く、柔軟な対応が可能
- メリット③安全性の高い環境でシステムを利用できる
- メリット④データ連携などで業務の効率化を図れる
メリット①環境構築や運用での人的負担を削減できる
これまでは、自治体が独自にシステム環境を構築し、運用・保守を実施。システムの維持や改善にあたり、多くの労力を割く必要がありました。
これに対して、ガバメントクラウドであれば構築済みのシステムを利用できます。そのため、従来のようにハードウェアやOS、ミドルウェア、アプリ等のソフトウェアを整備・管理する必要がなくなります。
メリット②拡張の自由度が高く、柔軟な対応が可能
クラウドサービスは、一般に拡張の自由度が高いです。そのため、アクセス負荷が増える時期や繁忙期のみリソース(容量)を追加したり、反対に忙しくない時期などにリソースを縮小したりと、状況に合わせて柔軟な対応ができます。
拡張で利用されるリソースや機能もあらかじめ用意されているため、迅速な環境の調整が可能です。
メリット③安全性の高い環境でシステムを利用できる
ガバメントクラウドは、政府も利用するクラウド環境です。だからこそ、その安全性は非常に高いといえます。クラウド上のセキュリティ対策も、基本的にはサービスを提供する事業者が行ってくれます。
また、クラウドサービスでは各種データがデータセンターに預けられるため、災害時のリスクも低いです。
メリット④データ連携などで業務の効率化を図れる
ガバメントクラウドの重要な目的の一つが「業務の効率化」です。
クラウド内のシステムは国が定めた基準を満たすものに限られるため、一定の品質が担保されています。また、ガバメントクラウドはデータを一元管理できるので、システム間や自治体ごとでの連携も容易です。
政府は、自治体などが負担するシステム運用経費について、標準準拠システムへの移行で「少なくとも3割削減(2018年度比)を目指す」としています。
しかし、先行でガバメントクラウドに移行した自治体や、現在試算を行っている自治体のなかには移行によりコスト高になるケースも報告されています。
詳しくは、次の章で解説します。
移行の課題や注意点

ガバメントクラウドには多くのメリットがあるものの、移行は決して容易でありません。さらに、現在は「移行にあたり見積もりを取ったら、非常に高額だった」というケースも報告されています。
移行期間が短く、手順も複雑
そもそも、自治体の標準準拠システムへの移行が本格化したのは2023年。ここから移行完了の目標期限とされている2025年度末までは、わずか3年ほどです。
移行にあたって、自治体は現行システムの状況の再確認からサービス/アプリの選定、移行計画の立案、関係事業者との契約締結、実際の移行や運用テストまで行う必要があります。
デジタル庁は移行の手順書を公表していますが、「具体的に何から手を付ければ良いのか分からない」という自治体も少なくありません。
【参考リンク】地方公共団体情報システム ガバメントクラウド移行に係る手順書 (第2.0版)|デジタル庁
かえってコスト高になる可能性がある
政府は、以下のような観点から標準準拠システムへの移行で自治体の運用コストを削減できると考えています。
- サーバーやOS、アプリを共同利用し管理コストを削減
- 拡張や縮小を柔軟に行い、無駄な費用をカット
- 自治体がアプリを選ぶ仕組みで「競争によるコスト削減」を促進
しかし、現在は見積もりや試算を行った自治体で、コストが移行前より数倍高くなるケースが報告されています。また、すでにガバメントクラウドを利用している自治体でも、移行前よりコスト高になったケースがあります。
見積額が高い原因としては、不確定要素の多さなどが挙げられます。移行が進み、長期的に運用を行っていけば、いずれはコストを抑えられるかもしれません。
しかしながら、見積額の高さから「移行に向けた予算の目途が立たない」という自治体もあるようです。
特定秘密を扱う情報システムなどは別管理
先にご紹介したように、現時点で標準準拠システムへの移行対象となっているのは20種類の基幹系業務システムです。「ガバメントクラウドなら安全だから」といって、全システムを移行できる訳ではありません。
特に注意すべきなのが、特定秘密を扱う政府情報システムなど、極めて秘匿性の高い情報を含むシステムが対象外となっている点です。
そのため、こういった秘匿性の高い情報に関しては、ガバメントクラウド以外の選択肢を検討する必要があります。
ガバメントクラウドに関するQ&A
ここでは、ガバメントクラウドについてよくある質問をまとめました。
Q. ガバメントクラウドへの移行期限はいつ?
政府は、自治体に対して「原則、令和7年度(2025年度)までに、標準準拠システム※ への円滑な移行を目指す」よう求めています。
ただし、事業者のリソースひっ迫などによって移行が遅れる場合は、政府が移行の支援を行いながら「概ね5年以内に標準準拠システムへ移行できるようにする」としています。
※国が定める基準や規格に適合するシステムのこと。なかでも、ガバメントクラウドの採用を努力義務としている。
Q. ガバメントクラウドへの移行は義務なの?
自治体のガバメントクラウドの利用は「努力義務」であり、完全な義務ではありません。
ただし、移行までの期限が短いこともあり、多くの自治体はガバメントクラウドへの移行を目指す見通しです。
Q. ガバメントクラウドのサービスベンダーは?
2025年2月時点において、ガバメントクラウドのクラウド環境を提供するサービスベンダーは以下の5社です。
- Amazon Web Services(Amazon Web Services)
- Google(Google Cloud)
- Microsoft(Microsoft Azure)
- Oracle(Oracle Cloud Infrastructure)
- さくらインターネット(さくらのクラウド、条件付き)
Q. ガバメントクラウドの利用料は誰が負担する?
2024年度まで、ガバメントクラウドの利用料はデジタル庁が負担していました。しかし、2025年度以降は自治体が利用料を負担する予定となっています。
Q. ガバメントクラウドとISMAPの違いは?
ISMAP(Information system Security Management and Assessment Program:イスマップ)とは、政府が求めるセキュリティ基準を満たすクラウドサービスの評価・登録制度です。
ガバメントクラウドは、評価・登録制度でなくクラウド環境全般を指す言葉であり、ISMAPとは全く異なります。ただし、ガバメントクラウド自体は、デジタル庁があらかじめISMAPに登録されているクラウドサービスから選定を行っています。
Q. ガバメントクラウドと自治体クラウドの違いは?
ガバメントクラウドと自治体クラウドは「自治体が利用するクラウドサービス」という点が共通しているものの、その規模感は全く異なります。
自治体クラウドは、特定地域の少数の自治体が共同で利用するクラウドです。データ共有や標準化の範囲も、共同活用している自治体同士に限られます。
これに対して、ガバメントクラウドは全国の自治体、さらには府省庁にも利用されます。また、国が主体となって構築・運用を行い、全国レベルでのシステム標準化・共通化を実現できるシステムです。
Q. ガバメントクラウドを利用するメリットは?
自治体がガバメントクラウドを利用するメリットとしては、主に以下の4つが挙げられます。
- 環境構築や運用での人的負担を削減できる
- 拡張の自由度が高く、柔軟な対応が可能
- 安全性の高い環境でシステムを利用できる
- データ連携などで業務の効率化を図れる
また、政府はガバメントクラウドの導入によりシステム運用経費の削減を目指しています。
メリットについては、こちらで詳しく解説しています。
まずは現状把握と管理の見直しを
自治体に対する標準準拠システムへの移行期限は、残り1年ほどしかありません。
移行にあたっては、現在のシステムやデータ管理の状況を把握することが必須です。「どこに何の情報があるのか」「移行の必要はあるのか」を確認してください。
また、標準準拠システムに移行できない情報などについては、管理方法を見直しましょう。現在はサイバー攻撃が多様化・巧妙化しているからこそ、情報管理が非常に重要です。
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