ソブリンクラウドとは？ガバメントクラウドとの違いや重要性を説明

デジタル時代の新たな潮流として注目を集めるソブリンクラウド。この記事では、その基本概念から他のクラウド形態との違い、そして企業のためのクラウド選択戦略まで幅広く解説します。

データセキュリティや経済安全保障に関心のある経営者、IT担当者の方々にとって、ソブリンクラウドの重要性と活用方法を理解する上で貴重な情報源となるでしょう。

ビジネスの競争力強化とリスク管理の両立を目指す皆様に、ぜひお読みいただきたい内容です。

ソブリンクラウドの基本概念と重要性

ソブリンクラウドは、データ主権の確保、システムの可用性保護、そして経済安全保障の3つの観点から重要性が高まっています。
これは、企業や国家が自国のデータとシステムを管理し、外部からの干渉や脅威から守るための概念です。ソブリンクラウドの基本概念を理解することで、組織はデータの保護とシステムの安全性を確保しつつ、クラウドテクノロジーの利点を最大限に活用できます。

以下では、これら3つの重要な側面について詳しく解説していきます。

ソブリンクラウドの定義と3つの主権

ソブリンクラウドは、データとシステムの主権を確保するクラウドサービスの形態です。その核心には「主権」と呼ばれる概念が存在します。

ここでいう「主権」とは、クラウドサービスにおいて自国の企業の情報資源を他国の政治情勢や法制度に左右されずに、独自に管理・制御できる権利を指します。つまり、ソブリンクラウドは、以下の3つの側面から企業が自律的にコントロールを維持できることを目指しています。

主権の種類	定義	保護されるもの
データ主権	データの所有権や制御権	・顧客データ ・業務データ
システム主権	ソフトウェアを自由にインストールできる権利	・パッチ ・アップグレード
運用主権	運用を自社でコントロールする権利	・システムへのアクセス権

例えば、自国の企業が外国のデータセンターに業務上のデータを保有している場合、政治情勢の変化や法制度の改正により、政府当局やその国の他企業にデータセンターごと差し押さえられてしまうリスクがあります。このようにならないためのクラウドサービスがソブリンクラウドです。具体的な対策としては自国や自国と強固な関係にある同盟国にデータセンターを置いたりする方法があります。

なお、ソブリンクラウドは新しい概念であり、まだ明確な定義が定まっていないため、クラウドベンダーによって主権の定義がまちまちです。上記の3つの主権の他にも以下のような主権を定義している企業があります。

データとシステムの主権が注目される背景

データとシステムの主権が注目される背景には、3つの重要な要因があります。

まずクラウドサービスと経済活動の結びつきが急速に強まっていることが挙げられます。企業や政府機関の重要なデータやシステムがクラウド上に置かれることで、その管理と保護の重要性が高まっているのです。

次に、地政学的リスクの顕在化があります。国家間の緊張関係や貿易摩擦により、データの越境移転や海外企業によるデータアクセスに対する懸念が高まっています。

さらに、機密情報のデジタル化が進展していることも大きな要因です。特に、米国のCloud Act（クラウド法）の施行により、米国政府が海外に保存されたデータにアクセスできる可能性が生じ、データの主権に関する議論が活発化しています。

これらの背景から、自国や自社のデータとシステムを適切に管理・保護する「ソブリンクラウド」の重要性が高まっているのです。

経済安全保障の観点からみた重要性

ソブリンクラウドは、経済安全保障の観点から極めて重要な位置づけにあります。内閣府の「重要物資の安定的な供給の確保」において、クラウドプログラムは重要な要素として認識されています。これは、国家の重要インフラや機密情報を守るために不可欠な技術だからです。

一方で、日本のデジタル赤字への懸念も高まっています。経済産業省の予測によると、2030年には日本のデジタル赤字が8兆円規模に達する可能性があるとされています。

この状況を改善するためにも、国内でのクラウド技術の発展と活用が急務となっています。ソブリンクラウドの推進は、このデジタル赤字の削減にも貢献し、日本の経済安全保障を強化する重要な施策となるでしょう。

参考：内閣府｜経済安全保障推進法に基づく重要物資の安定的な供給の確保（サプライチェーン強靱化）に関する制度について
参考：経済産業省｜次世代の情報処理基盤の構築に向けて

他のクラウド形態との違いを詳しく解説

ソブリンクラウドは、他のクラウド形態と比較することで、その特徴がより明確になります。パブリッククラウド、プライベートクラウド、ガバメントクラウドなど、様々なクラウド形態がありますが、それぞれにソブリンクラウドとの共通点や相違点があります。

これらの比較を通じて、ソブリンクラウドの独自性や重要性が浮き彫りになります。各クラウド形態との違いを詳しく見ていくことで、ソブリンクラウドがどのような場面で最適な選択肢となるのかが理解できるでしょう。ここからは各クラウド形態との違いについて解説していきます。

パブリッククラウドとの比較

パブリッククラウドとソブリンクラウドの主な違いは、データの管理と法的制約にあります。パブリッククラウドでは、データが国外に保存される可能性があり、運用管理者の国籍に制限がなく、外国法の影響を受ける可能性があります。

一方、ソブリンクラウドは、データの所在地が国内に限定され、運用管理者は自国民に限定されており、外国法の影響を受けないという特徴があります。

このような違いは、データの主権性や安全保障の観点から重要な意味を持ち、特に政府機関や重要インフラの運営において考慮すべき要素となっています。

項目	パブリッククラウド	ソブリンクラウド
データ所在地	国外の可能性あり	国内限定
運用管理者	国籍制限なし	自国民限定
外国法の影響	受ける可能性あり	受けない

プライベートクラウドとの関係性

プライベートクラウドとソブリンクラウドは、密接な関係性を持っています。両者とも、データとシステムの管理を自社や国内で行うという点で共通しています。プライベートクラウドの技術や運用ノウハウは、ソブリンクラウドの構築に大いに活用できるのです。

実際、EUでは Oracle 社が、プライベートクラウド技術を採用した EU 専用のソブリンクラウドを構築しています。この事例では、EU 域内にデータセンターを設置し、EU の法規制に準拠したセキュリティ対策を施すことで、データの主権を確保しています。同時に、プライベートクラウドの柔軟性や拡張性も兼ね備えており、EU 加盟国や企業のニーズに応える形でサービスを提供しています。

このように、プライベートクラウドの技術基盤をベースに、国や地域の要件を満たすソブリンクラウドを構築することが可能なのです。

ガバメントクラウドとの違い

ガバメントクラウドとソブリンクラウドは、一見似ているように思えますが、重要な違いがあります。

ガバメントクラウドは、政府機関が共通で利用するクラウドサービス環境を指します。一方、ソブリンクラウドは、国や企業の主権を確保するという概念に基づいています。

ガバメントクラウドの主な目的は、行政サービスの効率化とコスト削減ですが、ソブリンクラウドは、データとシステムの管理権限を自国や自社で保持することを重視します。

ガバメントクラウドは特定の政府機関向けですが、ソブリンクラウドは国家レベルから企業レベルまで幅広く適用可能です。

また、ガバメントクラウドは必ずしもデータの国内保管を要求しませんが、ソブリンクラウドではデータの所在地が重要な要素となります。

このように、両者は目的や適用範囲、重視する点で明確な違いがあります。

企業のためのクラウド選択戦略

企業は戦略的な観点からクラウドを選択する必要があります。

まずデータの重要度に応じた戦略が不可欠です。セキュリティとコストのバランスを考慮し、最適なソリューションを選びましょう。高度な機密性が求められるデータには、プライベートクラウドやソブリンクラウドの採用が望ましいでしょう。

一方、あまり機密性が高くない一般的な業務データには、コスト効率の高いパブリッククラウドの活用も検討できます。さらに、これらを組み合わせたハイブリッドクラウド構成も、柔軟性と安全性を両立する選択肢として注目されています。企業は自社のニーズと優先事項を慎重に評価し、最適なクラウド戦略を構築することが求められます。

データ重要度に応じたクラウド活用方法

データの重要度に応じて適切なクラウド形態を選択することは、企業のセキュリティと効率性を両立させる上で非常に重要です。

まず、データの重要度を「低」「中」「高」の3段階に分類します。

重要度の低いデータは、コスト効率の高いパブリッククラウドでの運用が適しています。一方、中程度の重要性を持つデータについては、ハイブリッドクラウドを活用することで、コストとセキュリティのバランスを取ることができます。最後に、重要度の高い機密データは、セキュリティが強化されたプライベートクラウドやオンプレミス環境での管理が推奨されます。

データ重要度別の推奨クラウド形態を表にまとめると以下のようになります。

データ重要度	推奨クラウド形態	考慮すべき点
機密性高	プライベート/ソブリン	データ主権
機密性中	ハイブリッド	コスト最適化
機密性低	パブリック	利便性

ハイブリッドクラウド構成のメリット

ハイブリッドクラウド構成には、複数のメリットがあります。まず、コスト最適化が挙げられます。重要度の低いデータや処理をパブリッククラウドに、機密性の高いデータをプライベートクラウドに配置することで、コストと安全性のバランスを取ることができます。

次に、データ保護の柔軟性が向上します。法規制や社内ポリシーに応じて、データの保管場所を柔軟に選択できるため、コンプライアンス対応が容易になります。さらに、システム可用性の向上も重要なメリットです。パブリッククラウドとプライベートクラウドを組み合わせることで、障害時のバックアップや負荷分散が可能となり、システムの安定性が高まります。これらのメリットにより、企業は自社のニーズに合わせた最適なクラウド環境を構築できるのです。

KAGOYA FLEXによるプライベートクラウド構築

KAGOYA FLEX「プライベートクラウドパッケージ」は、プライベートクラウド構築において優れた選択肢となるソリューションです。

専有ハードウェアにプライベートクラウド環境が構築済ですぐに利用開始できるオールインワンのサービスです。VMwareベースの信頼性の高いプラットフォームを採用しており、安定した運用が可能。さらに、HA機能による高可用性の確保により、システムの継続性が担保されます。

これらの特性により、KAGOYA FLEX 「プライベートクラウドパッケージ」は機密性の高いワークロードに最適なソリューションとなっています。セキュリティ要件の厳しい企業や、データの主権を重視する組織は、KAGOYA FLEXによるプライベートクラウド構築をぜひご検討ください。

まとめ

ソブリンクラウドは、データとシステムの主権を確保するためのクラウドサービスです。経済安全保障の観点からも注目されており、企業は自社のニーズに応じて適切なクラウド戦略を選択する必要があります。

パブリッククラウド、プライベートクラウド、ガバメントクラウドなど、様々な形態があるなかで、ハイブリッドクラウド構成も有効な選択肢です。クラウドの選択は、ビジネスの未来を左右する重要な決断となるでしょう。