現代のIoT社会では、速度が早くて遅延が起こらない通信が求められる中で、エッジデータセンターが注目されています。エッジデータセンターとは、企業や産業の中心地から近い場所で稼働するデータセンターのことで、安定したネットワーク環境を提供します。
当記事では、エッジデータセンターの概要から活用するメリットについて解説しています。課題やデメリットについても説明していますので、参考にしてください。
目次
エッジデータセンターとはなにかをわかりやすく紹介
エッジデータセンターとは、利用者の近くで稼働する小規模のデータセンターのことです。エッジには「近く」や「境界」という意味があります。
エッジデータセンターとは
エッジデータセンターとは、近距離にデータセンターを設けることでネットワークの遅延を防ぎ、低遅延の処理を可能とさせるデータセンター(考え方)です。IT用語としてのエッジとは「ユーザの端末の近く」という意味があります。
エッジデータセンターには広域な通信網を整備する必要がなく、強固なセキュリティを確保できる利点があります。
インターネットなどを介してエッジデータセンターへ接続する場合、CDN※エッジサーバーの活用が有効です。できるだけ現場の近くにコンテンツを置くことで通信経路を安定させ、う回路を利用した通信によって遅延を防止します。
※CDN(Contents Delivery Network)とは、キャッシュサーバーなど数多くのサーバーで構成されたプラットフォームを利用することで、Webサイト上のコンテンツなどを素早くクライアントへ届けられる手法を指します。
なぜエッジデータセンターが必要なのか
医療や自動運転・製造業などさまざまな業種でIoTが広がる昨今において、ネットワーク遅延を起こさない仕組みとしてエッジデータセンターが求められるようになりました。
例えば、製造工場で稼働する各マシンにサーバーを設置すれば、近距離のため高速でデータ処理を行うためにはとても有効な手段です。しかし、工場にあるマシンごとにサーバーを設置していてはスペースの確保が困難になるため、サーバーをデータセンターへ集約するケースも多くなりました。
一方、各マシンとサーバーをデータが往復するには、0.001?0.01秒のリアルタイム性が求められます。しかしクラウドの利用やデータセンターが遠隔地にあるケースでは、往復で0.1秒~数秒の遅延が発生するため必要条件を満たせません。
マシン(現場の端末)から数キロ圏内に小規模なデータセンターを設け、この課題を改善させるためエッジデータセンターが必要なのです。
エッジコンピューティングとは?
エッジコンピューティングとは、データ処理やデータ分析を行うサーバーをエッジ(近く)に分散配置させるネットワーク技法のことを言います。
例えば、製造工場で稼働する各機械にセンサーとサーバーを設置し、センサーで検知した位置に狂いなく加工や組み立てを行うことができます。
車の自動運転では、カメラやレーダーで得たデータを瞬時に加工し、安全な走行につなげる必要があります。クラウドへデータを送信して返信を待つクラウドコンピューティングでは、データの発信元とサーバーとの距離が離れているケースが多いため、遅延が発生しやすくなります。
「現場=エッジ」で処理するエッジコンピューティングでは、このような遅延を改善することが可能です。
他のデータセンターとの違いは?エッジデータセンターの特徴
エッジデータセンターと他のデータセンターとの違いは、以下のとおりです。
エッジデータセンター | 一般的なデータセンター | |
---|---|---|
設置場所 | データが生成される場所の近く、最小限の遅延で高い接続速度を実現する場所に配置 | 高負荷処理を実現する大型サーバを設定できる地盤が安定した土地、世界中に存在 |
サーバ数 | 5,000サーバ未満 | 5,000サーバ以上 |
データ処理方法 | 分散型 | 集約型 |
一般的なデータセンターと比較すると、大きな違いは設置場所の「近さ」と必要面積の「広さ」であることがわかります。
エッジデータセンターの利点・メリット
エッジデータセンターの利点とメリットは以下のとおりです。通信・処理速度の向上の他に、セキュリティ面でもメリットがあります。
- レイテンシーの短縮
- 処理速度が速い
- メンテナンス・保守が簡単
- セキュリティ性が頑強
それぞれのメリットについてくわしく解説していきます。
レイテンシーの短縮
エッジデータセンターを利用することでレイテンシーの短縮になります。レイテンシーとは、ユーザーがアクションを起こしてからレスポンスが返ってくるまでの時間のことです。ホームページであれば、ボタンを押してから画面が表示されるまでの時間を指します。コンピュータなどの装置であれば、指示を出してから動作するまでの時間です。
自動運転の車両では、センサーが危険を察知してからの反応速度が重要となります。0.1秒遅れるだけで大きな事故につながりかねません。ネットワーク遅延が起こらない環境構築がIoTの更なる発展を後押しすることになるでしょう。
レイテンシーとよく比較されるのが帯域幅です。データ通信における「道幅」のことで、帯域幅が広いほど多くのデータ通信が可能となります。ただ、離れた土地からのアクセスにおいては、レイテンシーの短縮に直接つながらないことがあります。
処理速度が速い
エッジデータセンターを活用すれば通信距離が短いことから処理速度が速いため、ユーザーがストレスを感じることなく機器を操作できるようになります。
そのためさまざまな産業に活用できます。
スマートフォンでの5G通信が一般的になっても、サーバー側での処理速度が遅いと効果が半減されてしまいます。エッジコンピューティングを活用すれば、このような問題を改善できるのです。
メンテナンス・保守が簡単
エッジデータセンターはデータの伝送元から近い場所にあるため、メンテナンス・保守が容易となる特長があります。安価に広帯域のネットワークが敷設できる点もメリットでしょう。
また通信速度が速いため、リモートでの保守にも適しています。データセンターまで移動しなくても運用できる点は、人件費の削減になるでしょう。
セキュリティ性が頑強
エッジデータセンターを活用することで、セキュリティ性が頑強になります。
情報化社会となり、情報の重要性は年々増しています。安全にデータを取り扱い、ユーザーに安心してもらうためにはセキュリティへの意識を高めなければなりません。
例えば、医療業界でエッジサーバーを利用する場合は、カルテの情報を外部から守ることになります。個人を特定できない情報に加工して処理をするため、個人情報の漏洩を防ぐことが可能です。
エッジデータセンターの課題・デメリット
エッジデータセンターの課題やデメリットは以下のとおりです。
- 導入・運用コストが増える
- 要件を満たす場所に配置する
- 環境への影響を最小限に抑える
- 情報セキュリティリスク多様化への対応
それぞれの課題について詳しく解説します。
導入・運用コストが増える
エッジデータセンターを利用するためには、周辺のシステムも整備しなければなりません。導入時のコストやリプレース時のコストが大きいため、必要な全体のコストについて十分に把握しておきましょう。
また運用コストが増える点にも注意が必要です。エッジデータセンターを活用したシステム環境には、情報がさまざまな場所に分散されることになります。
1つの場所に情報が集約していた時とは違い、分散したデータとの関係性を考慮したうえで、それぞれ管理していかなければなりません。
運用コストを抑えるために、リモート接続で保守対応可能なデバイスの導入や要件に沿ったエッジデータサーバを用意しましょう。
要件を満たす場所に配置する
エッジデータセンターを立ち上げる際、情報を十分に守れる場所へ設置しなければなりません。
製造拠点で利用する場合には、工場の中へ設置する必要があり、産業の中心地で利用するケースでも同じインフラ圏内に配置することが重要です。
エッジデータセンターの設置場所を決めた後も、維持管理をする人員を配置するコストを考慮する必要があります。サービスを中断させることなく、クリティカルなアプリケーションをサポートするためには、徹底したリモート監視が重要になるでしょう。
環境への影響を最小限に抑える
持続可能な社会を実現するために、エッジデータセンターから環境への影響を最小限に抑える必要があります。特にエッジデータセンターは敷地面積も限られるため、環境への配慮を見落としがちです。
エネルギー使用量の削減・温室効果ガス排出量の削減・廃棄物の正しい処理など、環境へ配慮できる設計が必要です。
情報セキュリティリスク多様化への対応
エッジデータセンターの課題の中でも、一番の課題はセキュリティリスク多様化への対応です。
求められるセキュリティレベルの環境を構築するためには、初期導入費が増大しやすくなります。分散された情報を外部の脅威から守ることは簡単ではありません。セキュリティ関連に強いエンジニアの採用や、専門業者に依頼する必要があります。
エッジデータセンターを提供する企業と契約する際には、セキュリティ条件が正しく設定され、トラブル時の対応フローが明確になるようSLAを締結しましょう。
エッジデータセンターの種類
エッジデータセンターの種類を以下の表にまとめました。
立地 | 規模 | 床耐密度 (平米あたり) | 電力密度 (ラックあたり) | |
---|---|---|---|---|
標準型 エッジデータセンター | 企業や産業集積地から 15km圏内 | 100~1,000ラック | 700kg以上 | 6kVA前後 |
高密度型 エッジデータセンター | 企業や産業集積地から 15km圏内 | 100~1,000ラック | 1.0t以上 | 12kVA前後 |
クラウド対応 データセンター | 都市郊外/都市部から 50km圏内 | 1,000ラック以上 | 1.5t以上 | 8kVA以上 |
クラウド対応データセンターは、都市郊外に設定されることが多いですが、一般型・高密度型のエッジデータセンターは利用する企業や産業集積地から15km圏内である必要があります。
高いレベルでネットワーク遅延を起こさないアプリケーションの提供や、製造ラインの構築をする場合は、高密度型のエッジデータセンターの活用が理想的でしょう。
エッジデータセンターの活用事例・ユースケース
エッジデータセンターの活用事例やユースケースは以下のとおりです。
- 医療業界
- 金融業界
- ゲーム業界
- 気象業界
それぞれ詳しく解説します。
医療業界
医療業界では電子カルテの導入が進み、患者さんの膨大なデータが蓄積されてきました。病状に対する正しい対応や、今後の医療業界発展に向けた分析データとしての役割も持ち合わせています。膨大なデータを保存し、高いセキュリティレベルで情報を管理するためにエッジデータセンターの活用が進められています。
エッジデータセンターを活用すれば、通信遅延が起きることなく適切な医療行為を行うことが可能です。リアルタイムの処理が求められる医療現場だからこそ、エッジデータセンターの特徴を活かすことができるといえるでしょう。
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/index.html
金融業界
金融業界では、止まることがなく判断後に早期行動を起こせる取引が求められています。エッジデータセンターの活用により、遅延のないスムーズな取引が可能となります。大量のデータを処理し、セキュアな通信が確保されることで、より多くの利益を得ることができます。
参考:https://www.stratus.com/jp/industry/financial-services/
ゲーム業界
家庭用ゲーム機で個人で遊ぶ時代から、ネットワーク上のマルチプレイヤーで楽しむ時代になっています。ARやVRの技術もゲーム業界を動かしており、大量のデータ通信でも安定した環境が求められています。エッジデータセンターの活用で、データ遅延することなくマルチプレイヤーに対応できるようになります。
今後、エッジデータセンターを活用したクラウドゲームがより多く出現してくることでしょう。
参考:https://www.sunbirddcim.com/edge-data-center
気象業界
気象業界では、リアルタイムで情報をアウトプットしなければなりません。これまでのクラウド環境では、通信の混雑や遅延によって、正しい情報提供に遅れが出てしまう課題がありました。エッジデータセンターを活用すれば、気象予報シミュレーターと組み合わて、リアルに詳細の気象情報を提供できるようになります。
また広い範囲での気象予報は、より細かい地域で予測できるようになります。一般人への気象情報提供だけでなく、農業や交通にも効果的に活用できるようになるでしょう。
エッジデータセンターが今後も注目される背景
「IDC Japan」の調査によると、エッジインフラ市場は2021年?2025年の平均成長率が9.9%で、2025年の支出額は5,591億円になると予測されています。
また、エッジデータセンターが今後も注目される背景として、以下2つが挙げられます。
- 通信の分散
- 5Gの普及
それぞれ解説します。
通信の分散
コロナ禍の影響でテレワークをする人が増え、WEB会議が一般的になりました。文字だけでのやり取りではなく、顔を見ながらのコミュニケーションは、新しい仕事の在り方を考える機会になっています。
都心に住んでいなくてもリモートで仕事ができるようになったことで、日本中の通信トラフィックは増加傾向にあります。またサブスクのサービスを展開する企業が増えたことも、個人の通信規模が増えている要因となっています。
このような背景から大型のデータセンターに通信が集約されるため、データセンターの拡充が進んでいます。通信先が一極化すると、災害が発生した際に社会のインフラへ大きな影響を与えてしまいます。
エッジデータセンターが注目されているのは、通信の分散化に貢献する点もあると言えるのです。
5Gの普及
5G通信の普及に伴い、大量のデータ処理を必要とするサービスが増加しています。
また、各企業におけるビッグデータの分析ニーズは増加傾向にあります。遅延が起こらない安定した通信のために、エッジデータセンターの活用に関して今後も注目されるでしょう。
まとめ
医療業界やゲーム業界を始めとして、これからの社会では高速で遅延のない通信環境構築のためには、エッジコンピューティングが必要になります。クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングをうまく組み合わせて、ネットワークの設計を行うことが今後重要になってきます。
IoTに取り組む企業やサービス提供者は、エッジデータセンターの特徴を理解し、新しいインフラ環境の構築を検討が必要でしょう。
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