目次
マルチクラウドとは
マルチクラウドとは「複数のクラウドサービスを併用し、目的によって使い分けること」を指します。一社のクラウドに全てを委ねないので、様々なベンダーから自社に最適なものを選ぶことができます。
マルチクラウド化する時に使われる代表的なサービスには、アマゾンの「AWS」やマイクロソフトの「Azure」があります。こうした大手クラウドサービスはもちろんのこと、ビジネスチャット、クラウドストレージ、会計ソフト、CRMソフトなどSaaSを組み合わせて使うこともマルチクラウドに含まれます。
そのため、例えば「自社のサービスサイトはAWSに設置、ビジネスチャットはSlack、社員のクラウドストレージはBOX」など、結果としてマルチクラウド状態になっている企業は多いです。
具体的な活用事例
結果としてマルチクラウド状態になっている企業の他に、戦略的に複数のクラウドを利用している企業も存在します。例えば日本政府も、政府・自治体が利用する「ガバメントクラウド」ではマルチクラウドを推進していました。
その他にも、以下のような観点でクラウドサービスを併用したり、使い分けたりしている事例があります。
事例① 各国の法規制に対応できるクラウドを選択
複数の国や地域で事業を展開しているX社は、以下のようにクラウドサービスを使い分けています。
● A社のクラウドサーバー…EU内にデータ保管ができるのが特徴。そのためヨーロッパの事業・顧客データを保存するのに使用 ● B社のクラウドサーバー…中国企業が提供しており、現地最適化されている。そのため中国の事業・顧客データを保存するのに使用 |
特に最近では個人情報の取り扱いが厳しくなっており、クラウドサービスもその国の法律に対応したものを選ぶ必要があります。また会計や顧客管理ではその国の制度や商習慣に合った機能が求められるため、その国にあったSaaSサービスが求められます。
事例② 障害からのスムーズな回復のために複数のクラウドを併用
ECサイトを運営しているY社は、以下のように複数のクラウドサービスを併用しています。
● C社のクラウドサーバー…認証サービスなど利便性の高いサービスを多数搭載。そのためECの基幹システムを設置しメインで利用 ● D社のクラウドサーバー…安定的なサービス運用のために併用 |
ECサイトの場合、システムの停止時間が長くなると、売り上げに大きな影響があります。そのため早急な回復を実現するためにマルチクラウド構成を選択しています。
事例③ サービス性質ごとに最適なクラウドサービスを活用
BtoBでデジタルサービスを提供しているZ社は、積極的にSaaSを活用するなど、以下のように複数のクラウドサービスを利用しています。
● E社の営業管理サービス…多言語対応ができ、連携できるサービスも多いので営業管理サービスとして使用 ● F社のCRMサービス…サポートだけでなくカスタマーサクセス機能もあるのでCRMはこのサービスを使用 ● G社のクラウドサーバー・・・ビックデータ解析や機械学習に強みがあるので、自社サービス開発・改善のための情報分析や開発に使用 |
最近では多数のSaaSが提供されており、利用するベンダーを一社に絞ってしまうと、該当するサービスがなかったり機能が不足していたりと思うようなツールが使えません。そのためマルチクラウド化せざるを得ないというケースも多いです。
ただしベンダーが別々になることで「上手く連携できない」「セキュリティレベルが揃わない」といったデメリットもあるので注意が必要です。
Q&A ハイブリッドクラウドとの違いは?
マルチクラウドと混同されやすい概念として、「ハイブリットクラウド」という考え方があります。名前は似ていますが、以下のような違いがあります。
● マルチクラウドでは「複数のパブリッククラウドサービス」を併用 ● ハイブリッドクラウドは「パブリッククラウド」「プライベートクラウド」「物理サーバー」を相互接続して使う |
パブリッククラウドとは、アマゾンの「AWS」やマイクロソフトの「Azure」のように、ベンダーが用意した環境を他のユーザーと共同利用するクラウドサービスです。こうしたパブリッククラウドだけで構成されたものを「マルチクラウド」と呼ぶのが一般的です。
特に法対応やリスク分散のために使われることが多いのも特徴です。
一方のハイブリットクラウドは、上述のようなパブリッククラウドと、自分たちだけが利用する「プライベートクラウド」や「物理サーバー(オンプレミス)」とを組み合わせて使うことを指すのが一般的です。またこうした複数のサーバーを統合して1つのシステムとして使うのも特徴です。
「機密情報はプライベートクラウドに保管し、パブリッククラウドは自社サイトなど情報公開のため」といった使い方をされることが多いです。
ハイブリットクラウドについては以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
【関連記事】ハイブリッドクラウドとは?メリットを構成例付きで分かりやすく解説
マルチクラウドを導入するメリット・デメリット
上述のような活用事例を見ると「メリットばかり」とも思えるマルチクラウドですが、デメリットもあります。メリットとデメリットを整理しましたので、確認しましょう。
【メリット】 ・複数のベンダーから自由に選ぶことができるので、最適なサービスを利用できる ・特定のベンダーに「ロックイン」されるのを防ぐことができる ・リスク分散になり、障害が起きた時にも早期に回復できる |
【デメリット】 ・複数のベンダーと契約することで、高コストになることがある ・複数サービスを利用することで運用が煩雑になり、管理に抜け漏れが発生することも |
重要なメリットは「最適なサービス利用」と「リスク分散」
一口にクラウドサーバーといってもベンダーやサービスによって搭載している技術や機能に差があり、また準拠している法律も異なります。SaaSまで含めれば、ビジネスチャットだけでも何種類も選択肢があり、それぞれに強み弱みがあります。こうした多彩な選択肢から目的や用途に合ったものを選べるのは、マルチクラウドの大きなメリットです。
一社に全てを委ねてしまうと、自社に合わないサービスを使うことになるだけでなく、今後の乗り換えハードルも高くなります。
またリスク分散ができるというのも重要なポイントです。どんなクラウドサービスであってもマルウェアによる攻撃や不具合の可能性はあります。マルチクラウドにしておくことで早期の回復が見込め、また災害など緊急時に備えたBCP(事業継続計画)の一環にもなります。
運用管理の工数が増えるのが一番のデメリット
多くのクラウドサービスを利用するということは、多くのID/PW管理が求められるということでもあります。また問い合わせ対応をするシステムやITの担当者も、多くのサービスを理解していることが求められ、マニュアル整備、アカウント発行・管理、プログラム更新など多くの工数が必要になります。
また複数のパブリッククラウドを使うことで管理が行き届かなくなり、「機能が重複していた」「ほとんど使っていないのに契約が更新されていた」など不要なサービスにまでお金を払ってしまう可能性もあります。適切な管理をしないと利用サービスは増える一方なので、コストの観点からも、また最適な環境維持のためにも、定期的な見直しが必要です。
参考:【初学者向け】AWSやAzureはIaaS!IaaS/PaaS/SaaSの違いからクラウドの本質を理解する
導入・活用のポイント
法対応やリスク分散のために活用されるマルチクラウド。これから戦略的にマルチクラウド化を推進していくのであれば、以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
・現在利用中のクラウドを整理し、目的に合ったサービスを取捨選択する ・導入前には各サービスのサポート体制とセキュリティレベルを確認しておく ・利用するサービスが増えたら管理ツールの導入も検討する |
多くの企業では、意識しないままマルチクラウド状態になっているというのが現状です。また新しいクラウドサービスが次々と誕生している中で、最適な組み合わせになっていないというケースも多く見られます。
そのため、まずは現在利用中のクラウドサービスを洗い出すところから始めてください。その上で目的に合わせてクラウドサービスを選んでいくのが重要です。
クラウドサービスの導入前には、サポート体制とセキュリティレベルのチェックを忘れないようにしましょう。サポート体制が薄いサービスを導入する場合には「社内リソースを増やす」「運用ベンダーを見つける」などの対策が必要です。
またサービスによってセキュリティレベルが異なるため、導入時にきちんと確認し、場合によっては追加認証の設定などを検討しましょう。
利用するクラウドサービスが増えてきたら、管理ツールの導入も検討してください。「CloudCenter」「Morpheus」「Scalr」「Turbonomic」など、複数のクラウドサービスをリソース、セキュリティ、財務など様々な観点で管理できるツールも存在しています。
まとめ
ここまでご紹介したように、多くの企業は意識しないうちにマルチクラウド状態になっています。
しかし漫然と複数のクラウドサービスを利用していると、運用管理の負荷やセキュリティリスクの増加にも繋がります。一方、目的意識をもってマルチクラウド化を推進していけば、法対応やリスク分散といった効果が期待できます。
だからこそ、管理運用のことまで考えた戦略的なマルチクラウド化をおすすめします。
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